まず中国側提出先に必要書類の確認を
中国での不動産売却に際して用意すべき書類は、中国側提出先が決める事項です。従って、まず中国側提出先に用意すべき書類が何かを確認することが必要です。確認すべきことは次の通りです。
- 用意する書類は何か。
- 委任状(委託書)について中国側提出先で用意された雛形はないか。
- 中国語訳を添付する必要があるか(通常は必要です)。
- どの書類に中国大使館認証が必要か(通常は日本で用意した全書類に必要です)。
用意する書類を中国側提出先に確認することは、次のメリットを生みます。
- 書類の不足を指摘されても、指示に従った結果であると抗弁できる。
- 実際には不要であった書類の準備にかける時間と費用を節約できる。
中国での不動産を売却するために日本側で用意する書類
中国側提出先に用意すべき書類を問い合わせても回答を得られない場合は、必要と推測される書類を準備するしかありません。中国での不動産を売却するために必要と考えられる書類のうち、日本で準備するものは次の通りです。
中国の不動産売却手続きの特徴は、所有者はもちろんのこと、所有者の配偶者の同意も必要となることです。これは、配偶者に所有権がない場合でも同じです。このため、必要書類は所有者にかかるものの他、配偶者にかかるものも必要になります。
以下は、あくまで一般的なケースにおけるものです。個々のケースでは、下記の書類以外にも必要な書類がある場合や、逆に下記の書類の中にも不要な書類がある場合もありますので、必ず中国の提出先に確認して下さい。
通常、中国語訳および中国大使館の認証は、以下に記したすべての書類に対して必要となります。
独身(婚姻歴なし)の日本人が中国に所有する不動産を売却する場合
この場合、身分証明書(パスポートの写し、場合によっては旅券発給事実証明書も)と、配偶者がいないことを証する文書(戸籍謄本、婚姻要件具備証明書)が必要になります。
- 全部事項証明書(=戸籍謄本)
- 婚姻要件具備証明書(独身証明書)(法務局が発行したもの)
- 現在有効なパスポートの写し
- 旅券発給事実証明書(※1)
- 委任状(代理人に手続を委任する場合)
- 日本帰化前の氏名と現在の氏名の両方が記載がある戸籍謄本(※2)
- 売却する不動産の権利書の写し(日本での認証手続きに必要)
独身(婚姻歴あり)の日本人が中国に所有する不動産を売却する場合
離婚歴がある場合、上記に加え、現在、離婚していることを証する文書(戸籍謄本、婚姻要件具備証明書)も必要になります。
- 全部事項証明書(=戸籍謄本)
- 婚姻要件具備証明書(独身証明書)(法務局が発行したもの)
- 離婚届受理証明書
- 現在有効なパスポートの写し
- 旅券発給事実証明書(※1)
- 委任状(代理人に手続を委任する場合)
- 日本帰化前の氏名と現在の氏名の両方が記載がある戸籍謄本(※2)
- 売却する不動産の権利書の写し(日本での認証手続きに必要)
日本在住の中国人が中国に所有する不動産を売却する場合
中国人が、中国所有する不動産を売約する場合は、基本的には中国国内で売却手続きを行う際に必要となる書類を準備すれば足ります。つまり、日本国内で準備する書類は、基本的にはありません。
ただし、ご自身で手続せず、代理人に手続きを委任する場合は、中国大使館の認証を付けた委任状(委託書)が必要になります。また、場合によっては、中国人所有者が、現在、中国在住ではないことを証する資料として、在留カードの写し(これにも中国大使館の認証が必要です)を求められる場合もあります。
- 委任状(代理人に手続を委任する場合)
- 在留カードの写し(中国側提出先が特に求めた場合に必要)
自分(日本人)は所有せず、配偶者(日本人)が所有する不動産の場合
配偶者が所有する不動産の売却には、ご自身が所有していなくても、売却への同意や手続きへの参加が必要です。よって、用意する書類は夫婦二人分となります。
婚姻関係を証明する文書(戸籍謄本、婚姻届受理証明書)は、夫婦どちらが取得しても同じものが交付されるので、夫婦合せて最低1組を用意すればよいでしょう(必要数は中国側提出先の指示に従って下さい)。
身分証明書(パスポートの写し、旅券発給事実証明書)は、夫婦それぞれ最低1組を用意します(必要通数は中国側提出先の指示に従って下さい)。
- 夫婦に共通して必要な書類
- 全部事項証明書(=戸籍謄本)
- 婚姻届受理証明書(婚姻届を提出した地区町村役場へ申請します)
- 所有者に必要な書類
- パスポートの写し
- 旅券発給事実証明書(※1)
- 委任状(代理人に手続を委任する場合)
- 所有者ではない配偶者に必要な書類
- パスポートの写し
- 旅券発給事実証明書(中国側提出先が特に求めた場合に必要)
- 委任状(代理人に手続を委任する場合)
- 中国には提出しないが日本での認証等の手続に必要
- 売却する不動産の権利書の写し
自分(日本人)は所有せず、配偶者(中国人)が所有する不動産の場合
所有者である中国人配偶者と現在も婚姻が継続している場合
- 夫婦に共通して必要な書類
- 婚姻事実が記載された全部事項証明書(=戸籍謄本)
- 婚姻届受理証明書(婚姻届を提出した地区町村役場へ申請します)
- 所有者である中国人配偶者に必要な書類
- 委任状(代理人に手続を委任する場合)
- 在留カードの写し(中国側提出先が求める場合に必要)
- 所有者ではない日本人配偶者に必要な書類
- パスポートの写し
- 旅券発給事実証明書(※3)
- 委任状(代理人に手続を委任する場合)
- 中国には提出しないが日本での認証等の手続に必要
- 売却する不動産の権利書の写し
- 中国発行の結婚証の写し
所有者である中国人配偶者と現在は離婚している場合
- 所有者である中国人元配偶者に必要な書類
- 委任状(代理人に手続を委任する場合)
- 在留カードの写し(現在も日本在住で、中国側提出先が求める場合に必要)
- 所有者ではない日本人元配偶者に必要な書類
- 離婚事実が記載された全部事項証明書(=戸籍謄本)
- 離婚届受理証明書(離婚届を提出した地区町村役場へ申請します)
- パスポートの写し
- 旅券発給事実証明書(※4)
- 委任状(代理人に手続を委任する場合)
- 中国には提出しないが日本での認証等の手続に必要
- 売却する不動産の権利書の写し
- 中国発行の結婚証の写し
- 中国発行の離婚協議書等、離婚事実を証明する文書の写し(※4)
※1 売却する不動産の登記当時の所有者、または、その配偶者の旅券番号が、現在有効なパスポートの旅券番号と異なる場合に必要となります。
※2 売却する不動産の登記や権利書の発行が帰化前の中国の氏名で行われ、その後、日本に帰化した場合に必要となります。ただし、全部事項証明書に帰化前の氏名が記載されている場合は、通常、不要となります。
※3 中国発行の結婚証に記載された日本人配偶者の旅券番号が、現在有効なパスポートの旅券番号と異なる場合に必要となります。
※4 中国発行の離婚協議書など、中国で発行された離婚を証明する文書に記載された旅券番号が記載されたパスポートについての旅券発給事実証明書が必要となるようです。
全部事項証明書、婚姻(離婚)届受理証明書、独身証明書が必要な理由
中国に所有する不動産の売却には夫婦両方による手続が必要
中国では、既婚者が不動産を売却するには、配偶者と共同で手続を行う必要があります。これは、その配偶者が不動産の所有者でない場合でも同じです。
例えば、中国人の妻と日本人の夫がいるとします。ここで、中国人の妻が中国に所有する不動産を売却するには、中国人の妻が単独でこれを行うことはできず、日本人の夫と共に手続をする必要があります。これは日本人の夫に所有権がなくても変わりません。
そこで、売却する方が既婚者である場合には、婚姻事実と配偶者を明かにするため、全部事項証明書(戸籍謄本)と婚姻届受理証明書が必要になります。また、売却する方が独身者である場合には、配偶者がいないことを証明するために、全部事項証明書(戸籍謄本)と法務局発行の婚姻要件具備証明書(いわゆる独身証明書)が必要になります。さらに、独身者であっても離婚歴がある場合には、離婚事実も証明するために、全部事項証明書(戸籍謄本)、法務局発行の婚姻要件具備証明書(独身証明書)に加えて、離婚届受理証明書も必要になります。
戸籍抄本ではなく戸籍謄本を用意
独身または既婚であることを証明するためには、戸籍抄本ではなく戸籍謄本を用意します。
戸籍謄本とは、現在では全部事項証明書と呼ばれるもので、その戸籍に属する全員の本籍、両親の氏名、生年月日、婚姻歴などが記載されています。夫婦は同一戸籍に属しているので、既婚者であれば、必ずその配偶者も記載されています。逆に独身であれば、当然ながら配偶者の記載はありません。
一方、戸籍抄本とは、現在では個人事項証明書と呼ばれるもので、戸籍謄本の記載から一部の人についての記載だけを抜粋したものです。従って、適当に範囲を絞れば、既婚者であっても、配偶者に関する記載のない戸籍抄本をとることができるため、既婚であることの証明として用いるには不適です。
婚姻(離婚)届受理証明書、独身証明書もあわせて用意
日本では、戸籍謄本があれば婚姻歴や配偶者の氏名を証明できますが、中国では、戸籍謄本に加え、婚姻届受理証明書あるいは独身証明書も、慣例的に要求されます。
婚姻届受理証明書は、婚姻届を提出した市区町村役場で入手します。
独身証明書には、市区町村役場が交付するものと、法務局が交付するものがありますが、中国大使館での認証には法務局発行のものを使います。
さらに、独身者であっても離婚歴がある場合には、中国大使館で独身証明書の認証を受ける際に、離婚届受理証明書を提出する必要があるので注意が必要です。
パスポートの写し(または旅券発給事実証明書)が必要な理由
中国にある不動産の売却手続には、パスポートの写しが必要となります。その目的は、単なる本人確認だけではなく、中国の不動産登記簿には、所有者の旅券番号が記載されており(例外もあります)、これをもとに本人と不動産登記簿に記載された所有者の同一性を確認することにもあります。
パスポートの写しではなく旅券発給事実証明書が必要となる場合
ところで、パスポートは一定期間ごとに更新され、これに伴い旅券番号も変わります。このため、中国の不動産登記簿に記載された旅券番号と現在有効なパスポートの旅券番号が異なる状態が生じ得ます。このような場合に現在有効なパスポートの写しだけを中国に持参しても、手続きを進めることができません。
このような場合は、不動産を登記した時に有効であったパスポートと現在有効なパスポートの所有者が同一人物であることの証明書(旅券発給事実証明書)を外務省で取得し、これに中国大使館の認証を受けたものを中国側に提出します。
委任状(委託書)により売却手続を委任できます
前述の通り、中国では、既婚者が不動産を売却するには、配偶者と共に手続する必要があります。これは、他方の配偶者が日本人で中国の不動産に所有権がない場合でも同じです。
しかし、売却対象の不動産について所有権のない配偶者までもが中国へ渡航し、手続に加わることは、必要性に薄い上、時間的にも費用的にも大変な負担がかかります。やはり、所有者ではない配偶者は、手続を他方の配偶者に委任し、所有者だけで手続きを進める方が合理的です。
そこで、手続の委任がよく行われます。委任に際しては、委任状(委託書)を作成し、公証役場、外務省、中国大使館で認証を受け、これを受任者が中国に持参した上で、手続を進めます。
中国の不動産を売却するための委任状(委託書)の書き方
中国に所有する不動産の売却に必要な委任状(委託書)の作り方に詳しい解説があります。
委任状(委託書)を作成する際には、まず最初に、中国の提出先に委任状の雛形が用意されていないかを確認します。委任状は中国の提出先が雛形を用意している場合は、雛形の署名と署名した日付を記入すればできあがる場合がほとんどです(もちろん、署名する前に、記載内容の説明を受けて下さい)。
委任状は、中国語に堪能であれば、中国語で作成するとよいでしょう。そうでない場合は、まず日本語で作成し、完成した委任状に中国語訳を添付します。いずれの場合も、必ず、中国大使館の認証を付けて下さい。中国大使館の認証がない委任状は、中国国内で通用しません。
中国で不動産を売却する際の委任状には、以下の内容を記載するのが一般的です。
- 委任者の氏名、性別、国籍、生年月日、身分証明書番号、住所
- 受任者の氏名、住所、国籍、生年月日、身分証明書番号、住所
- 売却する不動産の所在地
- 委任内容(売買契約の締結、売買に伴う登記手続き、代金の請求や受領など)
- 再委任の可否
- 委任状の有効期間
- 委任状作成日
- 委任者の署名
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